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振動とは

1.防振と除振

ある物体から発生する振動を外部に伝えないあるいは外部からの振動を装置に伝えないということは一般的に【防振】と言いますが、特に後者の概念を【除振】という言葉で呼び、【除振台】という装置名称が世の中に出ています。
「防振」の技術は防振ゴムに代表されるように、空調機や冷凍機などの電機機械設備を支持して、建物に振動を伝えないようにするために使われています。また、車のエンジン用マウントは起動時の揺れを抑える目的で減衰力を持たせながら、車体に与える振動を減らし、乗り心地をよくする技術に使われています。いずれも振動発生源を支持していますので、比較的大きな振動量をとる技術であり、支持するマウント(防振ゴム)などに加わる力が大きいです。

これから述べる技術は「除振」という概念であり、扱う振動量は人体には感じられません。

変位量でいえば10(μm)以下、加速度量でいえば0.1(m/s2)以下の量で、特に電子顕微鏡などが影響を受けないようにするための外部からの振動を取り除く技術を紹介します。

2.除振の考え方

「除振」は振動を除くと書いていますが、絶縁体のような電気を全く通さなくなるものとは違い、除振台を使えば床からの振動が全くなくなるというものではありません。装置を除振台で支持することで、装置に与える振動を影響の小さい成分に変換するものであります。

振動を表す量には、変位・速度・加速度があります。それぞれ時間に対する微積分の関係にあるので、振動を測定する量は何であっても構いません。

しかし、装置に影響する振動量が何かを見出せなければ、影響を小さくする除振方式が見いだせません。

例えば、電子天秤では変位量の振れが天秤の振れとなり、障害となって現れます。

天秤の場合は傾斜などの静的な変位量を調整し、重量の大きい剛性の高い台などに置くことで、変位の振れを小さくすることで使える環境ができます。

しかし、多くの装置は加速度量(=力)によって障害が現れます。

装置に与える加速度量を小さくするには、その装置をバネのような弾性体で支持し、低周波数で揺れる構造を作り上げることでできます。
これは自分の手を100mmの変位量で振ってみて、振る周波数が低いと、小さな力(=加速度)で振れることからも実感できます。

除振台は振動を取り除くと言うよりは、装置をバネなどの弾性体で支持することで、低周波数の揺れる構造(以下マウントと呼ぶ)を作り、装置に与える力(=加速度)を小さくするものです。

3.除振と制振

バネなどで除振をすると、装置はそのばね固有の特性と装置の重心高さ、支持するスパンにより様々なモードで揺動します。除振は低周波数の揺れを作ることですので、最も低い周波数のモードだけを揺らしやすくして、他の高い周波数の揺れを抑制できれば、単一の周波数だけで揺れる理想的な除振ができます。

揺れを抑制することを制振と言います。

たとえばヴィブラフォンは鉄筋の中心をたたくと鉄筋が曲がり、鉄筋の寸法で決まる振動モードが立ち上がり、音が鳴ります。原理は鉄筋の振動モードが立ちやすいスパンで鉄筋を支持することで、鉄筋は共振したまま揺れて、その音は長い時間続きます。しかし、鉄筋の端を手で触りながら、鉄筋をたたくと、鉄筋の揺れはすぐ止まり、音は収まります。

これが制振です。手が減衰材の役割をして、鉄筋の揺れを抑制しています。

除振装置の場合、バネだけで支持すると、様々なモードで揺動すると述べましたが、その内の高い周波数だけを制振することによって、単一の周波数の除振装置を作ることができます。

4.除振と免振

除振は変位量でいえば10(μm)以下、加速度量でいえば0.1(m/s2)以下の量での概念であり、人体に感じない量を取り扱います。

除振された装置に地震力が加わると、バネによる揺れが大きくなり、除振装置は破壊してしまいます。破壊しない程度に揺れる範囲(10mm以下)を決めて、地震対策ストッパーを設ける方式が主流です。地震の場合は100mm以上の変位量が考えられるので、ストッパーに当たってしまいます。つまり、除振装置は免震装置ではありません。

免震は地震力を免れるための方式であり、特に地震では横揺れが低周波数で大きく現れるので、装置を水平方向に滑らせて、力を逃がしてやれば免震できることになります。

実例としては、積層ゴムのような鉛直方向に固く、水平方向に柔らかい装置で支持し、水平方向のずれる許容範囲を大きく取れる形を選べば免震装置になります。また、摺動するベアリングの上に装置を載せて、引張バネを組み合わせて、長い距離摺動するステージを作れば、それは免震装置になります。いずれも、鉛直方向には直に振動が入るため、除振装置にはなりません。